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先週の二冊~

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生きる―乙川優三郎
主人公の石田又右衛門と小野寺郡蔵は筆頭家老の梶谷半左衛門から呼び出しを受ける。
江戸にいる藩主の飛騨守が病臥していて、あと数日の命だという。
梶谷家老の話しはただ「追い腹を切るな」ということであった。
石田も小野寺も藩主に拾われ、そこそこに出世して多大なる恩を受けたため、なんのためらいもなく「追い腹」をする者と思われての呼び出しであった。
二人は激昂し、追い腹の正当性をこんこんと説くが、誓詞を書かされ絶対に追い腹はしないこと、この約束ごとも他言しないということを約束させられる。
しかし、禁令はあってないようなもので、藩主が国元に戻る途中で早くも殉死者がでる。
帰国するまでに八人もが追い腹に及んだ。全て、又右衛門と同じように、途中から藩主に仕えそれなりに恩を受けた者ばかりであった。
又右衛門の娘、けんの良人真鍋恵之助も腹を切る。数日前からけんは父の又右衛門に、「夫は腹を召される気です。なにとぞ、思いとどまるよう、父上から……」とくどいほど言われていたのだが、見事な追い腹であった。
家中からだんだんと白い目で見られるようになる。本来、真っ先に追い腹をするべき又右衛門と郡蔵がのうのうと生きているからだ。投げ文には「はじしらず」と書かれてい、屋敷の門前には、魚のはらわたが置かれ、夜ともなると石を投げられる。又右衛門には、元服前の嫡男、五百次(いほじ)がいる。外ではかなりいじめを受けているらしく、明るかった性格がだんだんと寡黙になる。また、噂で娘のけんの気がふれたとも聞いた。又右衛門は針の筵に座りながらも、歯を食いしばって生きた。父の気持ちを思ってか、嫡男の五百次も腹を切った。又右衛門は、自問自答しながらも生きた。一緒に約束をさせられた、郡蔵は腹を切れずに、断食して果てた。又右衛門はそれからも、家中から忌み嫌われながらも生きた。
乙川氏の重厚な中篇の作品。中身が濃すぎる。この当時藩主が死ねば、切腹をして死の共をするというのは、至極当然のことである。誉になり美徳とされていた。そんななか、死んではいかんと言われた、老骨の武士には辛いものがある。現代では考えられないような出来事だが、読みすすむうちに胸にしみわたるような物語だ。簡素な会話も重い言葉に感じられ、久しぶりの硬派の「もののふ」小説を読んだような気がする。
他に、「安穏河原」「早梅記」の中篇が収められている。
いずれも、珠玉の名品であった。

20060625214529.jpg
雲ながれゆく―池波正太郎
主人公、お歌は行きずりの男に手ごめにされたところから物語は始まる。お歌は浅草の菓子舗「笹屋」のやりての後家だ。実家は深川の有名料亭で兄が継いでいる。
お歌の良人の弟が、いまでは主人となりお歌が後見人となっているのだが、この義弟がとんでもない奴で、義姉のお歌が笹屋を乗っ取ると思い込み、疑心暗鬼でいる。しかも、お歌の命までも狙おうとする。一方、実家の料亭ではすぐに帰ってこい、笹屋なんざうっちゃらかして、早く帰ってこいと言われ続けていた。実は働き者のお歌に帰ってきてほしいのが本音だ。
実家と笹屋を忙しそうに行ったり来たりするお歌。そんな毎日の中でも、あの手ごめにされた男のことが、憎からず忘れられない。幼友達に居場所を突き止めてもらい、家と名前も分かった。また、剣術、柔術の達人でもあるらしい。
あるとき、実家の上得意客の一人、江戸留守居役の関口が若い侍を料亭に連れてきた。匿ってほしいというのだ。あとで、分かったのだが敵を討つ身だという。打つ身がなぜ身を隠す必要があるのか?それは強すぎる相手が、返り討ちするため逆に捜しているという。(このへんが池波氏らしい設定)その若い侍の助太刀に、手ごめにされた男はどうかとお歌は画策を始めた。
長い間、池波氏の作品には遠ざかっていたが、ひさしぶりに読んだ。池波節炸裂の作品だ(笑)
いままで読んだ氏の作品は、男っぽいものが殆どだったが、今回はチャキチャキのやりての艶ある女が主人公。後家となったお歌が見事に、池波ワールドのなかで生き生きと行動している。家庭の内輪もめ、家同士の確執、武家の社会、敵討ち、道場の揉め事、そしてハッピーエンドと飽きさせないイベント(私にとって)のめじろ押しだ。ただ、池波作品としてお歌という女の内面、微妙な女心を読み取ろうとしなければ、全体を通してダラダラ感は否めない。なんとなく「渡る世間は鬼ばかり」に通じるホームドラマに感じる場面もある。池波作品を読み尽くしたうえで、てらいなくサラっと読むのにはいい作品だ。

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